お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
(市場で寄り道でもしているのか…?)
ちらり、と時計を見るアレン。
時刻は午後三時。ニナと別れてから三十分は経過している。
いくらなんでも、そろそろ屋敷の近くを歩いていてもいい時間だ。
…と。一部始終を見ていたメルがわずかに眉を寄せたその時。
屋敷の外から、ドタドタと慌てたような足音が近づいてくる。
『たっ、大変だーっ!大変だよーっ!!』
はっ!とすると同時に素早く玄関の扉を開けるアレン。すると、そこにいたのは市場で八百屋を営んでいる顔なじみの主人だった。
しかし、彼は強張った表情を浮かべていて、血の気が引いている。只事ではない。
切迫した状況を一瞬で察知したアレンは、思わず身構えた。
「どうされたんです、ご主人。何かありましたか?」
『あぁ、何かもなにも、大事件だよ…!!わ、わ、私は何も出来なくて…!!』
「落ち着いてください。一度深呼吸をして。一体、どういうことです?」
一同の視線が主人に集まった瞬間。
彼はその場にいた全員の予想をはるかに超える一言を放ったのだ。
『ニナちゃんが…っ、ニナちゃんが、二人組の男に誘拐されちまったんだよ…!!!!』