お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。



(…!)


一瞬で、その場の空気が変わった。


ばっ!!


主人の一言を聞くなり、反射的に駆け出すアレン。

しかし、冷静な瞳で彼を見つめたメルが即座に肩を掴む。


「早まるな…!今市場に向かったところで手がかりはない。主人の話を聞くのが先決だろう!」


「っ、離してください!俺が…、俺があの時、ニナを一人にしたから…!!」


アレンは、動揺が隠しきれないようだ。琥珀の瞳は、瞳孔が開いている。

もはや敬語も忘れた彼は、取り乱した様子でメルを払った。

しかし、次の瞬間。

メルの鋭い怒号が飛ぶ。


「落ち着け!アレン!」


「!」


「専属執事が狼狽えてどうする!この一分一秒を無駄な焦りに費やす間、ニナが危険に晒されていることを考えろ!」


はっ!と息を呑む一同。

顔面蒼白なサーシャに寄り添うルコットも、言葉を出せずにメルを見つめている。

やがて、深く呼吸をして顔を伏せたアレンを一瞥したメルは、ヴィクトルに向かって素早く告げた。


「ヴィクトル。今すぐ、全兵士に連絡して不審な人物の目撃情報を集めるんだ。ついでに、城に拠点を置いて、すぐさまここにいる面子で対策会議を開きたい。…頼めるか?」


メルの指示に、ヴィクトルは真剣な表情で大きく頷く。


そして、一同を乗せた馬車は、切迫した不穏な空気を纏ったまま、城に向かって走り出したのだった。

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