お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。

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「戴冠式の警護で町に出ていた兵から、ニナさんが誘拐された時刻に、市場から東に向かって物凄いスピードで走り去っていく馬車を目撃したという証言がとれたよ。」


城の応接室に、ヴィクトルの声が響く。

即座に緊急対策本部を設置したメルの指示のもと、パトロールにあたっていた城の兵達にききこみをしたヴィクトルは、険しい顔で視線を落とした。

その隣で、ルコットがメモを片手に言葉を続ける。


「八百屋の主人の話では、気を失ったようにぐったりしたニナ様を、男が抱きかかえて馬車に乗せていたようです。恐らく、目撃された馬車の荷台にはニナ様が押し込められていたのでしょう。」


対面して並ぶソファに腰掛けた一同は、何も発さない。

彼らの視線は、ニナの専属執事アレンに集まっていた。

カタカタと震えるアレンの指。

視界に映った彼の姿に、誰もが言葉を詰まらせる。


ニナを連れ去ったという馬車の持ち主は見当がついていた。

その馬車は市街への流通で使われるものであり、配達業を取り仕切っている役人で馬車を自由に使えるなんて、心当たりは一つしかない。

誰もの脳裏にブロンドの縦ロールのシルエットがよぎった。

私怨があることを考えても、きっと主犯はモニカで間違いないだろう。ラズナー家の馬車を使い、悪事を働いたに違いない。

ヴィクトルは、腕を組んで低く唸る。


「兵たちの聞き込みから、市街でサーシャを探し回る男がいたという情報もあった。もしかしたら、モニカに金で雇われた奴らが、ニナさんをサーシャと勘違いして連れ去ったのかもしれないね。」

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