お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
(…気が、狂う…)
アレンの頭の中を埋め尽くしていたのは、自身に対する怒りと抑えようのない焦りだった。
もし、ニナと別れる前に離れていく彼女の手を取っていたら…、もし、自分が彼女の言葉に浮かれて冷静さを欠いていなかったら、こんなことにはなっていなかっただろう。
“専属執事が狼狽えてどうする!この一分一秒を無駄な焦りに費やす間、ニナが危険に晒されていることを考えろ!”
熱くなっていた感情に、ざばっ!と冷水をかけるかのような、重みのある師の言葉も、今のアレンにとっては走り出したい衝動を数分抑える程の枷にしかならない。
しかし、いつものように反撃の作戦をたてようにも、思考がうまく働かないのだ。
「ヴィクトル様、この城の武器庫から、剣を一本貸していただけませんか。」
「何をする気だい?」
「ラズナー家に乗り込みます。手がかりが少ない以上、本人に監禁場所を吐かせるしかない。」
「お、落ち着くんだ、アレン君!一人で乗り込ませるわけにもいかないし、剣なんて物騒なものを執事の君に貸せないよ…!!」
「なら、金属バットでも…」
「こらこら…!」