お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。

絶句する一同。

メルの推察通り、海に出られたら終わりだ。

兵を使って行方を探そうにも、海向こうの隣国にまで捜索の手を広げるには無理がある。

それに、ラズナー家の港をシラミ潰しにあたっても、時間がかかりすぎるだろう。こうしている間にも、ニナが危害を加えられていたら。

そう考えるだけで、アレンは心がズタズタに引き裂かれる思いだった。


しかし、その時。

険しい表情のアレンの耳に届いたのは、凛とした師匠の声だった。


「顔を上げて、アレン。大丈夫。打つ手はある。」


「え…?」


戸惑いで琥珀の瞳を揺らすアレンに、メルは静かに言葉を続けた。


「誘拐犯が海に逃げるということは、おそらく隣国の港にも仲間がいて、退路を確保しているということだろう。それなら隣国の騎士団に協力を要請して敵の仲間を仕留めてもらえばいい話だ。」


「隣国の港に、軍隊を攻め込ませるってことですか…?!」


突飛な奇襲作戦に、目を見開く一同。

確かに、メルの言った通りに軍を動かせば、敵を一網打尽にすることが出来るだろう。

しかし、問題はどうやって軍を動かすか、だ。

王となったヴィクトルが味方についているとはいえ、王の権力は国内の自治に留まる。隣国の兵を動かすなんて荒技は、流石に王といえど厳しいだろう。

すると、その時。

アレンの思考を察した様子のメルは、艶やかな笑みを浮かべて囁く。


「俺が言っているのはヴィクトルじゃない。ほら、いるだろう?海の向こうに、その声一つで軍隊を動かせる権力を持った味方が。」

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