お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
(…!!)
脳裏に、薔薇色の瞳の男性がよぎった。
白い軍服の彼は、ダンレッドだ。
彼は強兵を率いる騎士団長。
その実力もさることながら、部下をまとめ上げる力も師団を動かす権力もある。
すると、メルの言った味方の正体に気がついたルコットが、おずおずと声を上げた。
「確かに、ダンレッドさんに頼めば、隣国の港を占領できるかもしれませんが…。騎士団長としての権力を私情に使うなんて、いくらニナ様のためとはいえ、引き受けてくださるでしょうか…?」
ルコットの不安はもっともだった。
ダンレッドは、犬のように素直でノーテンキな男に見えて、実は真面目で頑固な性格である。
本職に責任を持っている彼が職権濫用ともいえる暴挙に乗ってくれるか確信が持てない上に、人の命がかかっているとはいえ、メルの言った推察は、あくまでも可能性の一つ。
ニナの捜索の間、港を封鎖するとなれば、その間の貿易や船の出着港に多大な影響が出るし、もし、港に軍隊を派遣して何もなかったとしたら、ダンレッドが全責任を負うことになるのだ。
しかし、メルは涼しい顔をしてルコットに答えた。
「心配ない。俺が直接隣国に出向けば、あいつは二つ返事で軍を動かすだろう。」
「な、なんでそんなに自信たっぷりなんです?」
「?当たり前だろ。ダンの頼みを俺が断れないように、俺のお願いをダンは無下にできない。」