お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
(…。)
どこに不安要素が?、と言わんばかりに首を傾けるメルに、何とも言えない視線を向ける一同。
メルのどこから来るのかわからない自信は、元相棒の信頼関係と同等に揺るがないもののようだ。
そういえば、ダンレッドが火急の用と嘘をついて田舎に隠居していたメルを呼び寄せた時も、燕尾服に袖を通したメルを見た時も、ダンレッドは感激のあまり、ただのファン化していた。
これまでのメルに対するダンレッドの反応から見るに、その主張もあながち間違いではなさそうだ。
メルがわざわざお願いをしに来た上に、泣き縋ったりでもしたら、隣国の港どころか、全国の騎士団に連絡を入れて捜索しそうな勢いだろう。
あの人懐っこいダンレッドは、各国の要人にも顔がきくらしい。それに加え、メルの執事時代の裏のパイプも駆使したら、怖いものなんてないのだ。
(怖い。大人の本気…)
颯爽とトレンチコートを羽織りだすメルに、アレンが、ごくり、と喉を鳴らしていたその時。黙って話を聞いていたヴィクトルがガタン、とソファから立ち上がった。
「そうと決まれば、僕も各地に兵を派遣しよう。手始めに、港に停泊している不審船の情報と、ラズナー家の管轄の港を調べるよ。」
すると、その言葉に、メルは腕を組んで続ける。
「港を調べるなら、大きな漁港は捨てていい。恐らく、敵が潜んでいるのはラズナー家の廃港だ。…さすがに、意識のない女の子を担いだ男がいれば、目立つだろうからね。」
「!わかりました!」