お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。

きゅっ!とサーシャのドレスを掴むルコットに、それを聞いていた旦那、ヴィクトルも慌てて続けた。


「本人が行ったら、むしろモニカを逆撫でしてしまうかもしれないよ!ニナさんだけじゃなく、サーシャまで危ない目に遭ったりしたら、僕は…!」


すっ。


ヴィクトルの唇に指を添え、彼の言葉を遮ったサーシャ。

彼女の真剣な瞳は、冗談ではないことを告げていた。

しかし、それは無謀な思いつきではない。


「以前、お姉さまは私に言ったの。“私たちは運命共同体で、この容姿も性格も、サーシャを守るためのものだったのよ”って。」


「!」


「それなら、私だってそうだわ。私とお姉さまが双子なのは、今、お姉さまを守るためだったのよ。」


“まさか”


一同の脳裏に、とんでもない奇策がよぎった瞬間。

覚悟を決めたようなサーシャの凛とした声が、城の応接室に響いたのだ。


「行くわよ、ルコット、アレン。悪役令嬢はまだ終わってないわ…!」


そして、高らかな宣言が放たれた数分後。

煌びやかなドレスを脱いだサーシャは、シンプルなオレンジのワンピースに袖を通したのだった。

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