お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
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「…ここですね。」
目の前にそびえ立つのは、ラズナー家の別邸。
城から離れた郊外に立つその屋敷は閑散としていた。
その屋敷の廊下を進むのは、燕尾服の青年。
モニカのお付きらしい執事の男性が、奥の部屋へと導いていく。
『お嬢様は、こちらにいらっしゃいます。』
低くそう告げた男性が、カチャ…、とドアノブを回すと、ギギギ、と軋む音を立てた扉がゆっくりと開いた。
シルクのカーテン。
分厚い本が並ぶ棚と、赤いカーペット。
重厚な木で出来た執務室の扉の先に見えたのは、ブロンドの縦ロールである。
クッションの大きな椅子に腰をかけたまま、彼女はくるり、とこちらを向いた。
「あら?貴方、ルコットさんではなくって?わざわざ、私に何の御用かしら?」
一人で部屋に足を踏み入れたのは、ルコットだった。
燕尾服の尾がひらり、と揺れ、バタン、と扉が閉まると、その場は静寂に包まれる。
「サーシャ様はどうしたんですの?貴方は確か、彼女の専属執事なのでしょう?」
「…。」
黙り込むルコット。
そして、数秒の沈黙の後。
ルコットは、まっすぐモニカを見つめて低く尋ねた。
「僕のお嬢様をどこへやったんです?」