お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。

**


「…ここですね。」


目の前にそびえ立つのは、ラズナー家の別邸。

城から離れた郊外に立つその屋敷は閑散としていた。

その屋敷の廊下を進むのは、燕尾服の青年。

モニカのお付きらしい執事の男性が、奥の部屋へと導いていく。


『お嬢様は、こちらにいらっしゃいます。』


低くそう告げた男性が、カチャ…、とドアノブを回すと、ギギギ、と軋む音を立てた扉がゆっくりと開いた。


シルクのカーテン。

分厚い本が並ぶ棚と、赤いカーペット。

重厚な木で出来た執務室の扉の先に見えたのは、ブロンドの縦ロールである。

クッションの大きな椅子に腰をかけたまま、彼女はくるり、とこちらを向いた。


「あら?貴方、ルコットさんではなくって?わざわざ、私に何の御用かしら?」


一人で部屋に足を踏み入れたのは、ルコットだった。

燕尾服の尾がひらり、と揺れ、バタン、と扉が閉まると、その場は静寂に包まれる。


「サーシャ様はどうしたんですの?貴方は確か、彼女の専属執事なのでしょう?」


「…。」


黙り込むルコット。

そして、数秒の沈黙の後。

ルコットは、まっすぐモニカを見つめて低く尋ねた。


「僕のお嬢様をどこへやったんです?」


< 137 / 164 >

この作品をシェア

pagetop