お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
ばっ!と咄嗟にニナを振り払うモニカ。
緊張感の走る部屋に、モニカの怒号が響く。
「は、離して…っ!なんて乱暴な人なの…?!私を脅すつもり?本当に衛兵を呼ぶわ!」
「ふっ、呼べばいい。でも、私達を無理やり追い出したとして、私はこのまま食い下がる気はないわよ?」
「…?!」
ニナは、すっ、と執務室の机に座り、椅子に寄りかかるモニカを見下ろした。フッ、と浮かべられた黒い笑みは、どこの悪役令嬢よりも凄みがある。
「私は、“あの”サーシャの姉なのよ?タバスコケーキや、毒入りの紅茶なんか比べ物にならない罠で反撃させてもらうわ。」
「!」
「それに、サーシャはもうヴィクトル様の妻。一国の王女となったサーシャの姉を敵に回すことがどんなに恐ろしいことなのか、箱入り娘の幸せな頭でよく考えたら?…もし、このまましらばっくれるようなら貴族の社会に手を回し、貴方の家ごと潰すわよ。」
ピキーン…!
凍りつく空気。
スラスラと飛び出た悪役のセリフは、実は、隣国に飛び立つ前のメルが仕込んだ台本である。
しかし、高圧的な態度も容赦ない冷酷な口調も、全て、静かに怒りを溜め込んでいたサーシャが爆発した結果であった。もはや、ニナの演じていた悪役令嬢とは比べ物にならないほどの黒いオーラが、目の前の少女から放たれている。
ぱちぱち、と瞬きをするアレンは“やはりこの二人は双子だ”と妙に納得し、ルコットに至っては魂が飛びかけているようだ。