お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。


ーーと。

誰もが悪役令嬢の勝利を確信した

その時だった。


「…っ。」


つぅ…っ、とモニカの頬を伝う一筋の涙。

ニナを演じて仕掛けたサーシャ本人でさえ、ぎょっ!と目を見開いた。

つい、サーシャが狼狽えた瞬間、モニカはポロポロと大粒の涙をこぼし始める。


「ま、待って…?!ご、ごめんなさい…!」


思わず、素が出てモニカの涙を拭くサーシャ。

二人の執事が成り行きを見守っていると、モニカは嗚咽を漏らしながら、絶え絶えに言葉を紡ぐ。


「私だって、悪いことだと分かってたわ…っ!…っ、でも、でも、何かせずには、いられなくって…!…婚約破棄にならなければ、私が王女になっていたはずだったのに…っ!」


「…!!」


はっ!とした。

モニカの口から出た言葉に、息が止まる。

それは、ニナを演じているサーシャの胸に、一番突き刺さるセリフだった。


サーシャとヴィクトルの馴れ初めは、政略結婚が嫌で城から逃げ出した王子が、城下町でサーシャと出会い、追っ手の兵士を撒いた時に出来た傷をサーシャが手当てしたことがきっかけだ。

それは、ニナもアレンも周知の事実であるが、そのことについて、結婚するはずだった相手がどうなったかなんて誰も追求しようとしなかった。

ぼろぼろ泣き崩れるモニカを見て、確信する。

ヴィクトルの政略結婚の相手は、貿易商ラズナー家の令嬢モニカだったのだ。

< 141 / 164 >

この作品をシェア

pagetop