お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。

言葉が出ないサーシャに、モニカの心の叫びが浴びせられる。


「ずっと、ずっと、家のために王子に嫁ぐことが、私に課せられた使命だった。物心ついた頃から社交会に出て、厳しいレッスンを受けて、やっと婚約が決まって、夢が叶うと思ってたのに…っ。…どうして、私だけが“悪役”なのよ…っ!」


モニカは、幼い頃から王子に嫁ぐために教育を受け、家を安泰させることを心に決めて生きてきたのだ。

それが、そんなこととは知らないヴィクトルは、サーシャと出会い、親に反抗してまで愛する人を選んでしまった。

ヴィクトルの両親も、彼の熱意に押され、王族では珍しい恋愛結婚を許したらしい。

ラズナー家とは、婚約破棄に際し、貿易の一本化やビジネスパートナーとしての正式な提携を結ぶ契約がなされ、結果的に見ればプラスであったはずだった。

しかし、一瞬でも王女になる夢を見ていたモニカにとっては、家の安泰よりも自身の生きる意味が砕かれたようで堪らなかったのだ。


モニカのすすり泣くような声だけが響く。

不安げな執事達がちらり、と目を見合わせたその時。

ずっと黙り込んでいたサーシャが、ぽつり、と呟いた。


「…“私”は、貴方に謝ったりしないわ。ヴィクトル様を横取りした私を恨んでも当然だと思うけど…、私も、自分のしたことに罪悪感を抱くような胸を張れない生き方はしていないから。」


(…!)

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