お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
サラサラとした藍色の髪に琥珀色の瞳。その出で立ちは、どこかのタレントかと見間違うほどの美青年だが、身にまとっているのは燕尾服である。
そう。
彼はこの屋敷の若き執事なのだ。
私より一つ年上のアレンが使用人として屋敷にやってきたのは、今から八年前。幼馴染みとして育ったものの、いつのまにか私と一線を引いたアレンは、今ではしっかり主従関係を意識しているらしい。
しなやかに組んだ腕を離した彼は、そっと私の髪についた葉っぱを取り、綺麗な琥珀の瞳を物憂げに細めた。
「また、ピアノの稽古をサボって屋敷を抜け出したのですね。」
「だ、だって、窓の外に見たこともない子猫がいるのが見えたから…」
「“だって”、じゃありません。ほら、聞こえますか?」
『こらーっ!ニナ!どこへ行ったの?!まったくあの子は…!!』
屋敷から響くお母様の怒号。
震え上がるニナの腕からするり、と抜け出した子猫を抱き上げたアレンが、目を泳がせるニナに向かって小さく告げる。
「さ、早く謝りに行きますよ。一緒についていってあげますから。お嬢様の専属執事である私の監督不行き届きにされても困ります。」
「うぅ…」