お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
最後の男が地面に沈む。
わずかに呼吸を乱したアレンが、くっ、と髪の毛をかきあげた。
「ったく。主人も主人なら、執事も執事だな。寄ってたかっていじめるしか能がないのか、コイツら…」
アレンがぼそりと呟いた、その時だった。
「相変わらずだね。アレン。」
突然、背後から聞こえた低い声。
そして、ばっ!と振り返ったその先に見えたのは、城の壁に寄りかかる一人の男だ。
軍服の帽子から覗く、こげ茶色で少し癖のある短髪。そして、人懐っこそうなぱっちりとした薔薇色の瞳と可愛げを残した凛々しい顔立ち。
腰に下げた剣と軍服の腕章が、月明かりにキラリと照らされた。
「ダンレッド…!」
名を呼ばれた男性は、にこっ!と笑ってわずかに顔を傾げる。鍛えられた体がはだけた胸元から覗いていた。
「久しぶり、アレン。あんなにちっこかったお前がこんなに成長してるとはねー。執事になったとは聞いていたけど、ここで会うとは思わなかった。」
「ダンレッドこそ、今は隣国の騎士団長になったんだろ?なんでこの国にいるんだ?」
「ヴィクトル王子の護衛として声がかかったんだよ。一ヶ月後に控えた王子の戴冠式までの期限付きで。…って。敬語、外れてるけど?いいの?」
「今は俺の主人がいないからな。旧友にかしこまる必要もないだろ。」
「ははっ!たしかに!」