お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
矛先を変えたらしい男たち。
しかし、割って入ったのが小柄な少女だと気づき、ナメた態度を崩さない。
『優しい俺たちが、不良品のトマトを買ってやるって言ってんだ。感謝してほしいくらいだぜ。…ほらよっ!』
バラバラッ!と銀貨を放った彼らは、トマトの袋を手に取って逃げる気満々。
その金額が足りないのは明白だ。
「待ちなさいっ!泥棒っ!」
私は、思わず叫び、ぱっ!と自分の買い物カゴへ視線を落とす。その中には、アレンに頼まれたメロンが顔を覗かせていた。
ボウリング玉のような威力を持つブツを、思いっきり駆け出す男たちへとぶん回す。
すると、狙い通りクリーンヒットした男が、背中を抑えて立ち止まった。
『何すんだ、このガキ…!!』
「お金を持っていないわけじゃないんでしょう?黙って見過ごすわけにはいかないわ!」
『この…っ!』
次の瞬間。
ヒュッ…!と、拳を振り上げる男。
こういう時、何かと機転が利くアレンは不在。もちろん、戦闘経験のない私は護身術も危うい。
まずい。
私の武器は、メロンだけ。
『ニナちゃん!!』
切羽詰まったような八百屋の主人の声が町に響いた、その時だった。