お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
(男の人に、美人、だなんて言ったら気を悪くするかな。…でも…)
彼は私よりも歳上のようだが、二十代前半と言っても通じるような外見と、どことなく漂う品があった。
その美貌は、ヴィクトル王子と並んでも引けを取らないだろう。すらり、と立つその姿は、一流モデルといっても過言ではない。
「怪我はないか?」
「はい…!」
「そう。次はメロンで戦おうなんて思わないほうがいいよ。君は女の子だし、危ないから。」
「す、すみません…」
慌てて頭を下げると、彼は、わずかに目元を和らげた。
不意打ちで飛び出た天使の微笑みに、呼吸が止まる。
(…不思議な人…)
思わず見惚れていると、彼は、艶のある声で静かに尋ねた。
「お礼といってはなんだけど、ちょっと道を教えてくれるか?この町に来るのは久しぶりで。」
「あ、はい!いいですよ。どこへ行く予定なんですか?」
すると、彼はトレンチコートをなびかせて、静かに答えた。
「ハンスロット家のお屋敷に。」