お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
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「君、お屋敷の人だったんだな。まさか、お嬢様だとは思わなかった。」
「あはは、よく言われます。申し遅れました。ニナ=ハンスロットです。」
「ニナ、か。」
「あの、お名前はなんていうんですか?」
「…名乗るほどの者でもないよ。用が済んだら、すぐに帰るつもりだから。」
クールな態度を崩さない彼。
物腰は柔らかで優しい雰囲気があるが、隣を歩くと背筋が伸びる。
多くを語りたがらない彼は個人情報を何も話さないが、八百屋の一件ですっかり警戒心を解いた私は、彼は信頼に足る人物だと認識していた。
(怖い人ではないけど、ちょっと緊張するな…)
「あの…、ハンスロット家には、どのような用事で?」
「あぁ。旧友に呼ばれたんだ。なんでも、火急の用があるらしく、住んでいた田舎町から飛んできたんだが…。俺も詳しいことは知らされていない。」
外見に似合わず、田舎暮らしだと言う彼は、「もう、都市部の町に来ることはないと思っていたんだけどね。」と、ほぅ…っ、と物憂げなため息をついた。
何やらワケありのようだが、詳しく突っ込んでも躱されそうだ。