お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。

にこやかな談笑の後、ふわりと微笑んだモニカは、私とアレンに手を振って会場に背を向ける。


「では、また…!今夜の舞踏会、楽しんで下さいね!」


「えぇ!またね、モニカ!」


と、その時。

去り際に立ち止まったモニカは、くるり、と振り返って私を見つめる。


「あ、言い忘れていましたわ!サーシャ様。そのドレス、とってもよくお似合いですわね。」


にこり、と笑った彼女。

メルさんからのプレゼントを褒められて、つい、顔が緩んだ。

お辞儀をして駆けていくモニカは、本当に私を待っていただけらしい。いじめっ子の相手をしてきただけに、彼女の健気さに胸が震える。


「さ、お嬢様。そろそろ会場へ向かいましょうか。メルさんも中にいるかもしれません。」


「そうね。見てて、アレン。私、しっかりステップを踏んでみせるわ!」


一縷の望みをかけ、私は足を踏み出した。

メルさんは、きっと来てくれる。

微笑んで頷いたアレンも、師匠の姿を待ち望むかのように顔を上げた。

そして。

私は意を決し、一歩、優雅な演奏が鳴り響く会場へ乗り込んだのだった。

< 65 / 164 >

この作品をシェア

pagetop