お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。


“クスクス…”


(…ん?)


なんだか、妙に周りの人から視線が集まっているような気がした。

ゲスト達のコソコソと耳打ちするような仕草に、どきり、とする。

彼らの視線は間違いなく私に注いでいるようだが、いまいち会話が聞き取れない。


「アレン。私、どこか変かしら?」


「いえ、特に目立った点はありませんが…。ヴィクトル王子の婚約者である故、注目されているのではないでしょうか?」


しかし、それは好奇の目というより軽蔑の視線だ。


(私、タグでも取り忘れたっけ…?)


と、そんなことを考えながらそわそわと視線に耐えていた

次の瞬間だった。


フロアに響くヒールの足音。

騒めいた人々が、無意識に道を開けていく。

そして、顔を見合わせたアレンと共に騒めきの渦中へ視線を向けると、私の目に飛び込んできたのは予想を遥かに超えるシルエットだった。


『これはこれは、ハンスロット家のサーシャ様。ご機嫌よう。』


赤毛のショートカットに、艶のある口紅。

すらり、としたスタイルの女性が目の前に立った。


『シェリンダお嬢様だわ…!』


『今日も、お麗しい…!!』


そんな声が聞こえ、彼女が噂のエベレスト級に高いプライドをお持ちのお嬢様であることを察した私。

しかし、私の目が釘付けになったのは、彼女の身につけているドレスだった。

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