お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
偽物
その一言に、ガツン!と頭を殴られたような気がした。
まさか。ありえない。
だって、これはメルさんが送ってくれたドレスだ。一流の執事であった彼が、見間違うはずがない。
その時、動揺の隠せない私の瞳に、シェリンダの不敵な笑みがくっきりと映った。
「まぁ…!なんて恥ずかしい!ミ・ロヴァのロゴもない安物を着て舞踏会に来るなんて。ここにいる上流貴族達の目が騙せるとでも思っていたのかしら…?」
ニヤリと笑うシェリンダと執事。
この瞬間、全ての策略に気がついた。
匿名で送られてきたドレスは、メルさんからのプレゼントじゃなかったんだ。
サーシャが舞踏会に参加すると踏んでいたシェリンダが、わざとこの場で私を嵌めようと画策した罠。
もし、メルさんからだと思わなくても、アレンは初め、ヴィクトル王子からの贈り物だと勘違いしていた。
シェリンダは確信があったのだ。
私が、疑うことなく安物のドレスを着て舞踏会に来ることに。
『あぁ、見ていられないわ。あのドレス、よく見たら布も安っぽくて、ミシンの目も荒いじゃない。』
『しかも、同じ型の本物を、シェリンダ様が着ているんだもんなあ。二つを見比べれば、本物かどうかなんて一目瞭然だな。』