お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
口々にそうヤジを飛ばすゲスト達。
足の先まで、さぁっと血の気が引いていく。
恥ずかしい。
偽物を着ていることも、全く同じデザインの一流品を着たシェリンダに見下されていることも、くすくすと笑うゲスト達の目に晒されていることも。
顔から火が出るどころじゃない。
今すぐ、ここから逃げ出したい。
前回のように喧嘩を売ろうにも、ここで“はめたわね…!”と、怒鳴ったところで証拠がないのだ。反撃の糸口すら見当たらない。
いつもは余裕のあるアレンでさえ、用意周到なトラップに言葉を失っている。
その時、シェリンダの執事が、近くのテーブルに置かれていたティーカップを手に取った。
嫌な予感がした次の瞬間。
彼は軽蔑の視線で高らかに嘲笑う。
「安物しか買えないニセモノ令嬢は、さっさと帰りな!ここは、庶民が来るような場所じゃないんだ…!」
勢いよくふっかけられる紅茶。
降り注ぐ茶色い水が、スローモーションに見える。
ダメだ。
足も、手も、動かない。
もはや避ける力もない私が、ぎゅっ!と目をつぶった、その時だった。
とっさに引かれる腕。
アレンが、即座に私の前へ進み出た。
庇うような背中に、はっ!とした瞬間。アレンの燕尾服に勢いよく紅茶がかかる。
「アレン!」
横を向いて顔を伏せるアレンは、何も言わない。
目の前で起こった光景に手が震え、ただ、立ち尽くす。
その時。シェリンダの執事が、「はっ…!」と乾いた笑いと共に、見下すようなセリフを口にした。
「さすが、腐っても執事だな。自らお嬢様を庇うなんて。…だが、主人が身につけるドレスの価値も測れないなんて、やっぱり、庶民に使える執事のレベルもタカが知れているようだね。」