お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
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穏やかな風が吹く城の庭。
嗚咽を漏らす私が声を出せたのは、会場を連れ出されてから数分経った頃だった。
「ごめんなさい、メルさん。せっかく来てくれたのにっ、…こんな、こんなになって…っ…」
言葉にすると、ぶわっ!と涙が溢れる。
最悪だ。
シャンデリアの下でダンスを踊るどころか、身にまとうドレスは紅茶まみれ。
挙げ句の果てにタンカを切って、会場の雰囲気をぶち壊してしまった。
もう、呆れも通り越して、縁を切られてもおかしくない。
優しくコートをめくったメルさんは、私の顔を見て、わずかに微笑む。
「ひどい顔。とてもお嬢様には見えないね。」
「…ごめん、なさい…」
かぁっ…!と恥ずかしくなって俯く私。
こんな、無様な姿を見せるはずじゃなかったのに。
すると、静かにまつげを伏せたメルさんは、側に立っていたアレンへ低く告げた。
「主を泣かせるのは執事の恥だ、アレン。昔、いかなる事態も想定しておかなければならないと教えたはずだよね。俺からの贈り物だと思い込んで確認もせずにいたことは、お前の落ち度だよ。」
「…すみません。」