お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
私は、その会話に勢いよく顔を上げる。
「それは違います、メルさん!私に、ドレスの知識がないから…!アレンは悪くありません!」
「まったく。身内のことに敏感だね、君は。」
トン、トン。と、優しくハンカチで髪を拭く彼。
てっきり、こっぴどくお説教をして帰ってしまうかと思っていたのに。
私は、困惑しながらぽつりと呟く。
「怒らないんですか…?」
「俺が…?なぜ?」
「その…、後先考えないお嬢様から抜け出せない私は、失格だと思っていたので…」
わずかに口角を上げるメルさん。
予想外の反応に目を見開くと、くすくすと肩を震わせた彼は静かに言った。
「あれは稀に見る傑作だったよ。主を庇った執事の功績を数秒後に無に帰す暴挙。初めて見た。」
(うっ…!)
確かに、せっかく紅茶がかからないように盾になったアレンの行動を、私はポットの紅茶を頭から被って一瞬で無駄にしてしまった。
メルさんの言葉を聞き、アレンも複雑な顔をしている。
その時。メルさんがぽつり、と言葉を続けた。
「でも。きっと、君がしなかったら俺がしていただろうね。」
「え…っ?」
「もちろん、俺は自分じゃなく相手の執事にかけるけど。大事な弟子を侮辱されて、黙ってる師匠は居ないだろう?容赦はしないよ。」
それは、今までのどんな言葉よりも温かい響きだった。
アレンへ視線を向けると、彼は「メルさん…!」と感動に包まれている。
(やっぱり、ダンレッドの言った通り。メルさんは、とっても優しい人だ。)