お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
その時。
アレンが静かに私の側に屈んだ。その琥珀の瞳は弱々しく揺れている。
「すみませんでした、お嬢様。私が側についていながら…」
「謝らないで、アレン…!私こそ、ごめんね。せっかく庇ってくれたのに…」
優しく、私の頰を撫でたアレン。
見上げるように私を見つめる不安げな瞳は、いつもの彼ではないようだ。
「火傷はしませんでしたか?」
「えぇ、平気よ。ポットの中の紅茶は、熱くなかったから。」
すると、アレンは、そっ、と私の頰に手を添えたまま、ぽつり、と呟く。
「…よかった…お嬢様の綺麗な肌に傷が残っていたら…“俺”…」
(“俺”……?)
…と。
微かな違和感に胸が音を立てた、その時だった。
「お姉さま…っ!」
茂みの陰から、聞き慣れた少女の声が聞こえた。
驚いて目をやると、がさがさと草木をかき分けて現れたのは、フードを目深に被ったサーシャである。
「サーシャ?!どうしてここに…っ!」
思わずそう声を上げると、サーシャに続いて現れたルコットとダンレッドが、口々に答えた。
「サーシャ様が、どうしてもニナ様が心配でじっとしていられないと言うものですから…!」
「悪く思わないでよ?俺たち、ちゃーんと城の奴らやゲストに気付かれないよう、裏道を通って来たからさ。」
こちらへ歩み寄ったダンレッドは、「あーあ、びしょ濡れだね。」と私を撫でる。
ぎゅうっ!と私に抱きついたサーシャは、涙を目いっぱいに浮かべて声をあげた。
「ごめんなさい、お姉さま…っ!私が、お姉さまに甘えたばかりに…、こんな辛い思いをさせて…っ!」
「謝らないで、サーシャ。私の方こそ、最悪なことをしたわ。私のせいで、せっかく決まった貴方の婚約が無かったことになったら…」
「そんなの構わないわ…!お姉さまが泣いている方が、よっぽど苦しいもの…!」