お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
私と同じ顔の妹が、ぽろぽろと涙をこぼしている。
私は、サーシャを泣かせた令嬢達を懲らしめるためにここに来たのに。
サーシャは私を一言も責めなかった。ただ、ぎゅっ!と私を抱きしめて、離さない。
「これでいいのよ、お姉さま。私自身が乗り越えなければ、意味がないことだったんだから。」
「サーシャ…」
その時。私たちの背後で、ドサ…ッ!と荷物が落ちる音がした。
はっ!として振り返ったその時。
視界に映ったのは、動揺に揺れるエメラルドの瞳。
「サーシャが、二人…?!」
そこに立っていたのは、赤いマントを羽織った王子、ヴィクトル本人であった。
彼の足元には、タオルや外套が落ちている。どうやら、紅茶を被って会場を出た私を思い、追いかけてきてくれたようだ。
しかし、素直に喜んでいる場合ではない。
なぜなら、一番知られてはいけない、双子を利用したなりすましを目撃されてしまったからだ。
その場に居合わせた味方一同は全員こう思っただろう。
(なんて、タイミングの悪い…!!)