お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
その瞬間、すべての経緯を察したアレンが、はっ!と目を見開いた。
「まさか、ロヴァさんって、ミ・ロヴァの創設者の…?!」
「うん。あのお爺さん、昔からお世話になってるから。」
(なっ、なんだってーー?!!)
メルさんの取り引きの相手は、なんと、超一流ドレスブランドの創設者、ロヴァだったらしい。
何という人脈の広さ。
想像を超えたビックネームがずらりと電話帳に並んでいるメルさんに、驚きと尊敬のあまり目玉が飛び出しそうだ。
ふわり、と余裕の笑みを浮かべたメルさんは、言葉の出ない様子のアレンに低く告げた。
「何を驚いているの、アレン。俺のこういう裏のパイプも利用するつもりで、教育係に呼んだんでしょ?」
「そ、それは…」
「ふふ。いいよ、まんまと利用されてあげる。今日は機嫌がいいからね。」
まっすぐ、私に手を差し出すメルさん。
アッシュの入ったグレージュの髪が、ふわりと風になびいた。
「言っておくけど、俺はアレンよりも数倍タチが悪く、したたかなんだ。それに、売られた喧嘩は必ず買う主義。…この意味が分かるね?」
ごくり、と喉が鳴る。
月明かりに照らされた彼の綺麗な顔が、不敵に笑った。
品のある小悪魔のような笑みが、いたずらを思いついた子どものように目に映る。
「反撃開始だよ、ニナ。あの地獄の中に戻る覚悟はある?」
そんなの、答えは決まってる。
大きく頷いて手を取った私に、メルさんは満足げに頷き返し、アレンへ小さく目配せしたのだった。