お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。


さすが、元、一級執事。

ブランクが空いた今でも、細かい知識が頭に入ったままのようだ。綺麗なお顔に似合わないスパルタ教育は、もはや詐欺レベル。

それは、私のレッスンを見守るサーシャとルコットも、思わず苦笑するほどである。

その時、ニコニコと嬉しそうなお母様が部屋を訪れ、すっ!と近くのテーブルに白い皿を置いた。


「はい、メルさん。メロンを冷やしておいたので、どうぞ。」


「ありがとうございます。…私は客人ではありませんので、お気遣いなく…」


「いいのよ!貴方のおかげで、やっとニナがやる気になったんですから。メルさんが来てくれるようになって、屋敷のメイド達も喜んでいるのよ?」


お母様には、表向き、ただの教養指導ということになっている。悪役令嬢を演じるためのレッスンだなんて聞いたら、卒倒するだろう。

しかし、一人称が“私”である執事モードのメルさんは、笑顔で人当たりもよく、お母様に気に入られているため疑われる心配はない。さらに、休憩中にお茶出しをする屋敷のメイド達が黄色い声援を送ることもしばしば。

いわば、ウチの使用人はもれなく全員ファンクラブ状態である。


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