お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。
アレンの言葉に、はっとした。
確かに、サーシャが正式な妃となれば、嫌がらせをして罠に陥れたところで何の意味もなくなる。
婚約者のイスから引き摺り下ろし、花嫁候補から離脱させることが目的であったいじめっ子令嬢も、妃相手となれば、それこそ自分の立場の心配をし始めるだろう。
『王族になれば、今よりも自由が失われることもあるだろう。
でも、君が僕を支えてくれるというのなら、僕は如何なる時も君を守り、どんな悪いことからも君を遠ざけることを誓うよ。
サーシャが、もし、僕の妃になってくれるというなら、ぜひ戴冠式に来てほしい。もちろん、お姉様も一緒にね。
From ヴィクトル』
手紙には、サーシャに対する優しさと愛がこもっていた。
隣を見ると、サーシャは手のひらを握りしめ、覚悟を決めたように呟く。
「断るわけないわ。こんな、宝物のような言葉をもらったのは、初めて…。」
王族に嫁ぐ決心がついたらしいサーシャに、一同は穏やかな視線を送る。
その時、唯一ずっと黙り込むメルさんに気がついたダンレッドが、彼を覗き込むように首を傾げた。
「どうした?メル。何か気になることでもあるの?」
すると、メルさんは腕を組んで眉を寄せる。
「戴冠式後に、王子が正式に妃を迎えることを発表するとなれば、自ずとサーシャが挨拶をする流れになるだろう。さすがに、そこでニナが代わりに出るわけにはいかないと思ってね。」
「うーん、確かに。」
「でも、一連の罠を仕組み、裏で糸を引いていた真の黒幕が野放しになっている以上、サーシャを初めから戴冠式に出席させるのはリスクが高いだろう?」