お嬢様。この私が、“悪役令嬢”にして差し上げます。

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「はい、お疲れ様。そろそろお昼にしよう。」


戴冠式前日。

歩き方から会釈の仕方まで細かく指導を受けた私は、午前のレッスンを終え、庭園のテーブルでティーセットを片付けていたメルさんに、おずおずと声をかけていた。


「なんか、最近のアレン、変だと思いません?」


「変?」


「はい。ここのところ外出が多いし、分厚い書類を持ってどこかに電話をかけていると思えば、夜中までパソコンに向かって何かやっていてコソコソしてるというか…。聞いても教えてくれないし…」


「へぇ。」


さほど興味がなさそうに相槌を打った彼。

教育係を引き受けてくれたメルさんと時間を過ごすうち、だんだんと打ち解けてきた私は、レッスン後に彼と雑談をすることがしばしばあった。

すると、燕尾服を脱ぎ、白いシャツの上からトレンチコートを羽織った彼は、くすり、と微笑んで小さく答える。


「アレンが側にいない時間が増えて、気になる?」


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