潜入恋愛 ~研修社員は副社長!?~
彼はそれを聞いてぎゅっと手を握りしめ、声色を低めてこう返した。


「誠に申し訳ありませんけど、うちの事はそのくらいで。今はのんびり喋っている暇はありませんから」


失敬…と相手を睨み付けながら部長の側を急ぎ足で去る。
部長はそんな彼に目線を向け、「お疲れ様です」と言ったが表情はとても不満そう。



「何だよ。偉そうに」


背中を向けた彼が階段を駆け下りて行くのを確認した後、若造のくせに…と恨み言を呟きながら振り返った。


私は、ゆっくりその人に近づいて行って声をかけた。
山下部長…と名前を発すると、こっちに目を向けた相手は、おう、お疲れ…と返事して。


「あの、さっきの……越智さんですけど」


部長は先週の月曜日、私が彼を連れてオフィス内を回った時にはいなかった。
だから、きっと今日初めてこの社内で彼と会った筈だ。


「ああ、君も彼のことを知ってるのかい?そりゃそうだね、OCFコーポレーションと言えば、二課の上得意先だもんな」

「彼はそこの…」

「副社長さんだよ。知ってるだろ」


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