潜入恋愛 ~研修社員は副社長!?~
(しかも、そうだ。あの時__)


私は自分が日本酒で酔ってしまい、彼にホテルまで運んでもらった時の記憶をぱっと思い出した。


あの時、さっきと同じ様な低い声色がして、誰かに面倒くさそうな感じで「任せる」と言い、何かあっても早朝と昼休み以外は電話をしてくるなと喋っていた。

それを虚ろな状態で耳にしたから、私はてっきり夢か何かだろうと勘違いしていた。



(だけど、あれが彼の声なら__)


何も知らなかっただけで、彼は陰では忙しく働いてたんだ。
きっと副社長として短時間で部下にもいろいろと指示を出して……。


(今日だって本当は朝早くから仕事をしていた。…ううん、もしかしたら昨夜からずっと徹夜で働き続けていたのかも……)


私はきちんと彼のことを見てなかったんだろうか。


彼は疲れた顔をしてなかった?
目の下にクマはなかった?
どこか草臥れたようにはしてなかった?
眠たそうに欠伸を噛んではいなかった……?


自問を繰り返すが思い出せない。
ただ、真剣な眼差しを私に向け、此処へ来ている間は私との時間を優先する…と言ってくれた言葉しか、耳に入ってなかった。

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