潜入恋愛 ~研修社員は副社長!?~
許さないと一言、怒鳴ってやりたいと喉元まで声が上がってくる。だけど、それを言おうにも一緒に嗚咽まで出てきそうで、やっぱり声には出せず___。


「………っ」


掠れそうな声を出したつもりだったが、音にはならない。
それを見た智司はもう一度頭を下げ、「じゃあもう行く」と言って立ち上がった。


「一年間ありがとう。仕事、頑張れよ」


じゃ…と言うと椅子を元に戻して伝票を握りしめて立ち去る。
私の頼んだ小ジョッキのビール代だけでも、お詫びに払うつもりでいるらしいんだが___。


(そんな同情、欲しくない…!)


そう思い直して店の出入り口までダッシュした。
丁度団体さんの会計に出くわし、智司を追い掛けたくても直ぐには店から出られず。


「すみません、ちょっと通して」


搔き分けるようにして何とか店の外へと飛び出した。
智司の背中を見つけるつもりで周囲を見回すが、どうしても彼が見つからない。


(智司…どこ…)


今言ってたことは本気?
私と彼女では、そんなに一緒にいる雰囲気が違うの?


(何が違うの?)


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