潜入恋愛 ~研修社員は副社長!?~
困惑しながらこれまでの事を思い返す。

私が自社製品の味見を頼むのがダメだった?
智司の言うことを守って、看病にもお見舞いにも行かなかったことがダメだったの?

昇格が決まって、「仕事、頑張れ」と言ってくれたのは智司だったよね。
「香純、真面目だから体壊すなよ」と言って、休みの日も無理に会おうとしなくていいと言ってくれたじゃない。


(私…それを鵜呑みにしていた?それも全部、相手と会う為の口実だったの?)


ずっと騙されてきたの?私。
ずっと裏切り続けられてきたの?私……



「どうして…」


そりゃ確かに仕事は嫌いじゃないよ。
五年も同じ部署に配属されて、真面目に働いてきた分、他の女子社員よりも仕事のことを少しよく知ってただけ。


だけど、ただそれだけなの。
新人の頃から仕事を早く覚えようと思って、懸命にただ、働いてきただけ。


「それなのに……それが裏目に出たと言いたいの?」


そんなの無い、と声を上げて泣きそうになった。
バーや居酒屋が並ぶ街の一角で、ただ茫然と雑踏の中に立ち尽くしてしまった……。


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