命令恋愛
と、その時だった。


空家の一階からガタガタと物音がして、あたしは双眼鏡から視線を外した。


この家を使い始めて物音が聞こえて来たのは、初めてのことだった。


「誰……?」


そう呟き、廊下へ出る。


数人分の足音が部屋の中を歩き回っているのがわかった。


「今はホコリっぽいですけど、掃除をすればまだまだ綺麗に使えますよ」


男性の、営業のような声が聞こえてきてハッとした。


もしかしたら、この家の購入を考えている人たちが来たのかもしれない。


空家といえど売り出していれば、いずれこういうことになるだろうという予感はあった。


でも、京太のためならどんなリスクでも背負う事ができたのだ。


「二階もご覧いただけますよ」


男性の声にあたしは双眼鏡を握りしめた。


どうしよう、こっちへ来てしまう!
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