命令恋愛
「嫌……やめて……」


香菜美が声を震わせる。


あたしだってこんなことしたくない。


なんでこんなことをしなきゃいけないのかも、わからない。


ハサミの先で少し皮膚が切れたようで、血が滲んで来た。


だけどそんな痛み、今のあたしには大したことじゃなかった。


ハサミを握りしめる手にグッと力をこめる。


テコの原理で針がズズッと動き、少しだけ浮き出して来た。


自分の太ももの中で針が動くのを感じて、吐き気がした。


動いた針の隙間から血が滲み出る。


ここまで来たら、もう勢いで引き抜くしかない。


あたしは思いっきり力を込めたのだった……。
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