命令恋愛
☆☆☆

家に帰って来たあたしは、ただいまも言わずに自室へ向かった。


姿見で確認すると右目がほとんど縫い合わされていることがわかった。


「うぅっ……」


低く唸り声を上げながら、爪先で糸をつまんだ。


少し動かすと自分の瞼も一緒に上下する。


それは奇妙な操り人形のようだった。


「なんで……こんな……」


少しずつ糸を引き抜くたびに、痛みで涙が滲んだ。


プクッと小さな血が溢れるたびに目に入らないよう、それをティッシュで拭う。


ようやくすべての糸を引き抜いた時、あたしの瞼は真っ赤に腫れ上がっていたのだった。
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