命令恋愛
一瞬、聞き間違いではないかと思った。


けれど確かに言った。


『死んでよ』と。


その手には包丁が握りしめられている。


命令に従っても、命令を無視しても、その先にあるものは同じ『死』のように見えた。


スマホを持っている美世の手が震えだした。


「美世、落ち着いて。きっとなにか方法があるから」


そう言うが、美世はあたしの言葉を無視して突然立ち上がり、走り出した。


「美世!?」


慌てて千秋と2人で美世の後を追い掛ける。


あたしも千秋も傷だらけで、走るたびに痛みを覚えた。


まるで生き地獄のような状態だった。


「美世!」
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