命令恋愛
☆☆☆

停止したトラックを確認して、あたしと千秋は駆け出していた。


近づくと美世は首が妙な方向へ折れ曲がり、腹部から内蔵がはみ出しているのがわかった。


半分開かれたままの目はなにも映していない。


「美世……」


あたしは茫然としてその場に立ち尽くした。


周囲のザワメキも、遠くから聞こえて来た救急車の音もなにもなもが夢の中みたいだ。


「これ見て!」


そんなあたしを現実へ引き戻したのは千秋だった。


千秋は美世のスマホを手に持っている。


さっきトラックに踏みつぶされて壊れたはずのそれは……まだ、ゲームが起動された状態になっていた。


電源を消しても、バッテリーを抜いても勝手に動き出すゲームは、ボロボロになったスマホ上でも動いているのだ。
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