はずむ恋~見つめて、触れて、ときめく~
でも、彩音を特別に思っているのは間違いないだろう。私に出来ることはないもないが、彩音の気持ちが片瀬さんに届くといいなと願う。

届いたとしても、私みたいにダメになることもある。別れたばかりだとどうしても悪いことばかり考えてしまうけど、彩音の恋は心から応援している。


「彩音と片瀬さんがうまくいったら、私も嬉しいから、がんばって距離を縮めて」

「うん、ありがとう。私しか見えないように縮めるね」


彩音と片瀬さんの話を聞いた帰り道、玲司さんの笑顔ばかりが浮かんだ。まだ私の想いは彼にある。

別れると決めたのは私なのに、彼のことばかり考えてしまう。『藍果』と呼ぶ声を思い出してしまう。

「藍果」

姿を思い浮かべるだけでなく、幻聴まで聞こえるようになってきた。これはある意味、病気で重症かもしれない。

だって、玲司さんが目の前にいて、私を呼ぶなんてあり得ない。


「おーい、藍果?」

「えっ? ほ、本物?」

「ん? なに言っているの? 今帰り?にしては、遅いね」

「れ、支配人……」


顔の前で手を振られて、幻だと思っていた顔をマジマジと見る。幻でなく本物の玲司さんだった。私は重症ではなかったようだ。
< 130 / 168 >

この作品をシェア

pagetop