はずむ恋~見つめて、触れて、ときめく~
やっぱりここに来てはいけなかった。何で足を踏ん張って、行かない!とキッパリ拒否しなかったのだろう。

後悔しても遅い。

今ここにいるのは事実で、抱き締められているのも事実。だけど、まだ大丈夫。今からでも離れたらいい。

決心が揺るがないうちに。


「帰ります!」


思いっきり、玲司さんを押し退けて立ち上がった。急いでバッグを持って、玄関へと足を向ける。


「ちょっ、待って!」


玲司さんの慌てる声が背後から聞こえたが、待たずに玄関まで行き、パンプスを履く。

が、より慌てているのは私の方で、うまく履けなくて、右のパンプスが転がる。それを取ろうと手を伸ばすがバランスを崩す。


「あわわっ」

「藍果!」

「わっ……」


もたついていた私は捕まった。どうしてスムーズに履けないの、この足は……自分の足を恨んでも仕方がないが、なにかに当たりたい気分。


「何で自分の足を叩くの? やめなさい」


捕まえられて、玄関に座る形となった私を玲司さんが背後から包み込むように抱き締め、足を叩く私の手を止めた。

離れたくても離れられない、ここから出たくても出れない。あと少しで出れるのにもどかしい。
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