はずむ恋~見つめて、触れて、ときめく~
ラウンジが混んでいたら申し訳ないと思ったが、幸い席は半分ほどしか埋まっていない。スタッフを呼んで、チョコレートケーキをオーダーすると、快く受けてくれた。

すぐテーブルに置かれた美味しそうなケーキに目を輝かせて、いざ食べようとフォークを持ったとき、テーブルに影が出来る。

視線をケーキから横にずらすと、きれいに磨かれた男性の靴に目が止まる。顔を上げるよりも先に頭上から声が届いた。


「お疲れ様。それ、当ホテル自慢のケーキですよ」

「え、支配人。お疲れ様……です」

「うん、ゆっくり食べてね」


優しく微笑んで、すぐ背を向けた支配人を思わず引き止めそうになる。待って……落ち着いて……彼は今仕事中だから、呼び止めてはいけない。

でも、いつもどうして不意打ちに現れるのだか。突然過ぎて、何も出来ないじゃないの。

なかなか話す機会を得られなくて、焦れったくなる。今度ゆっくり話をと言ってくれたが、その約束をする機会さえもが得られない。

まずは約束を交わさなければ、話すことも出来ないのに。
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