はずむ恋~見つめて、触れて、ときめく~
「もし気分悪いとか苦しいとかあったら、遠慮なく言って。ベッドで横になっていいから」

「ベ、ベッド?」

「うん。あー、なんか警戒させちゃった? なにもしないから安心して」

「は、はい」


なにもしない……。そうよね、なにもされない……。って、私はなにを落ち込んでいるのだか。

沈みかけた心を奮い立たそうとふた口目を口に入れた。


「本当に甘酸っぱくて美味しいですねー」

「美味しそうに食べてもらえると嬉しいね。業務中の横川さんはほとんど表情を崩さないよね。愛想はあるんだけど、それは作られた愛想だよね。お客様に誠意を伝えるための。だから、今みたいに自然に顔が綻ぶのを今日初めて見た」

「え、あ……美味しいものを食べるとつい……」

「そんな恐縮しないで。自然な横川さんが見れて本当に嬉しいんだからね」


普段の私をちゃんと見てくれいて、今の私もちゃんと理解してくれる。ふたりしかいない部屋だから、出てしまう自然な表情かもしれない。

支配人だから、出てしまうのかもしれないのだけれども。
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