え?裏と表があるのが当たり前?ありすぎも迷惑です!
『お知らせします。瑠璃塚椿さん、瑠璃塚椿さん。理事長がお呼びです、理事長室までお越し下さい。繰り返します。瑠璃塚椿さん、瑠璃塚椿さん。理事長がお呼びです、理事長室までお越し下さい』
学園内放送で突然呼ばれた。自席で本を読むことが習慣の椿は、なにも怒られるようなことはしていないとは思うが、他のクラスメイトは、なにをやらかしたんだ、とこちらをじろじろと見てくる。
「なんなのよ」
しかし椿はもう一つ、理事長室に呼び出される理由を知っている。それは『なにかに対して敏感』であること。
例えば、耳や鼻、目や頭、創造力、思考力、計画力、検証力、変化力、反証力、データ読解力、データ分析力などだ。
しかしこれは外部の人間は勿論、内部の生徒や教諭にも知らされることはない。まあ、椿がどこで知ったかは後々教えていこう。
騒がしい様々な足音が階段を一段一段音を響かせて踏み上がっていくが、その中でもか細い足がとんとんと階段を踏み上って行った。
「2年華組瑠璃塚椿です。失礼します」
5階にある理事長室に着くと、軽くドアをノックした。直ぐに中から返事があり、ドアを押し入って入るとそこにはソファに座った理事長とその横に並んで立っている一人の若い男がいた。スーツではなく、楽なYシャツと白いジーンズを履いた男だった。
「おお!きたか、瑠璃塚くん。かけたまえ」
座るよう言われたが、直ぐに戻るつもりなので、と断った。座って話すと必ず話が長引く。ラフな格好をしている男を気にしながらもドアの前で立ち止まった。
「ご用件は?」
無駄話を理事長がし出す前に椿は、本題への流れを作った。男は私を気にしない様子で紅茶を飲んでいる。いかにもナルシストな雰囲気だ。
「成績優秀、運動神経も良いと評判の瑠璃塚くんにこの方の手伝いをして欲しいんだ。頼めるか?」
「急にそんなことを言われても無理です。順序を踏んでお話し下さい」
考える時間も取らずに、即答した椿は理事長室のドアのノブを後ろ手で握った。ずっとニコニコしている男の本性を知らないのに、手伝えなんて言われても「はい、分かりました」などと言えるわけがない。それになにを手伝うのかも聞いていない。
「分かった、順序良く話そう。この方は警察署から派遣された、真夜中巡回公務員の金澤友彦さんだ」
「よろしく」
軽く手を挙げてこちらを見ただけの、金澤友彦は椿に興味はないようだった。体の中に渦巻きそうになった怒りを抑えて、頭を下げた。真夜中巡回公務員がなにかは気になったが、底には触れないことにした。話が長くなりそうだったから。
「この方の仕事は、普通の警察では行えないような捜査を行うこと。その手伝いを瑠璃塚くんに手伝って貰いたいのだ」
しばらく話しを聞き、頭を悩ませる。
「そちらには利益があるとは思いますが、私にはなんの利益があるんです?」
一方だけに利益があるのは、椿のプライドに傷が付く。
「それは、後々分かる。利益があるのは間違いなしだ」
やっと友彦は声を出した。すると思ったよりも澄んで凛々しい声をしていた。
「利益があるのなら、引き受けましょう」
これが瑠璃塚椿にとって、人生を変える出来事の1つだった。 馬鹿みたいに晴れ上がった夏の陽に首筋を焼かれる。椿は頬に掛かる髪は長いが、背中に掛かる髪は顎ラインで切っている。これが夏になると首筋をすっごく黒くなる。赤くはならないから、何とかなる。
「名前は?」
友彦が廊下の奥に視線をやりながら、唐突に聞いてきた。
「瑠璃塚椿です」
驚きはしたが、表には出さないようにして友彦と同じように、廊下の奥に視線をやりながら答えた。友彦の方に視線を移すことはしない。
「お前は、視えるのか?」
「は?」
最初は何を言っているのか分からなかったが、3秒ほどフリーズした後、理解できた。
「幽霊とかですか?」
「そうだ、見えるならこの仕事は簡単だな」
椿の頭の中になんの仕事をするのだろうと、疑問がよぎった。それを察したかのように友彦は仕事の説明をしてやる、と偉そうに話し出した。
「俺がしている仕事は、さっき理事長が言っていた通り、真夜中巡回公務員だ。この世の中に俺ぐらいしかやってないだろうけど。真夜中巡回公務員はお前が」
「お前じゃないです。瑠璃塚椿です、覚えて下さい」
友彦の話を遮り私は改めて名前を言った。名前を名乗ったのにお前お前とは言われたくない。
「それで?真夜中巡回公務員はなんなんです?」
口を挟めば一向に話そうとしない友彦を、話させようと誘導する。何がしたいのかよく分からない。
「真夜中巡回公務員は瑠璃塚の言ったとおり、幽霊やその他にも妖怪、悪魔、天使、妖精などが起こした事件を解決することだ。これはそれらが見える者でないと、行けないから苦労するんだよ。どうせ瑠璃塚は信じてくれないだろうが」
急に自分の大変さを語り出した。しかしその言葉の中と表情になにか諦めるような、我慢するようなものが入っているように見えた。
「先生」
「なんだ、信じてくれるのか?」
「別に信じる信じないの問題じゃありません。でもまあ、とりあえず信じたと言うことにします。その妖怪たちの声は聞こえるんですか?解決するとしても、声が聞こえないとなにも始まらないでしょ」
うぐっ、と友彦が体をくの字に曲げた。その反応を見て椿は驚愕した。
「まさか、声を聞かずに解決してたんですか!?」
廊下を渡りきり、外のテラスを歩いていたが、まるで校舎に響き渡ったかのように、椿の声はわんわんと叫び渡った。無理強いに目を開けているようで瞼の筋肉が震えるほど、目を大きく開いた。
「い、いけないのか?」
「ダメに決まってるでしょ!なにやってるんですか!頭悪いんですか!」
椿と友彦の立場が逆になっている。心を落ち着かせるように、青く澄んで絹のように光る、トルコ石のような初夏の空に、白く濁った、熱く甘い夏を含んだ雲を見上げて、大きなため息を一つついた。
「それで?なにを手伝えと?」
「・・・・・・妖怪たちが起こした事件の捜査と、調べるのをです。お願いします」
急に声が小さくなり、敬語になった。さっきの叫び声が怖かったのだろうか?まあ、舐められるよりはましだ。
「先生、甘ったるいココアの匂いがするんですけど。ココア飲むんですか?」
そう聞くと慌てて友彦は、手のひらに息を吐くとクンクンと嗅いだ。ココアを飲んでいるのは明らかになった。これをスタートの号砲に、友彦のことは少しずつ分かり始めるだろう。
「先生の話って胡散臭いし、非現実的だし。他人が聞けば信じませんよ」
正門を潜り学校の外に出ると、日差しが一層強くなった気がした。正門を出ると目の前には、歴史街道(旧街道)と呼ばれる道が広がる。明治時代に作られたので赤煉瓦で作られ、少しヨーロッパの空気を漂わせている。
「でも、私は信じます。この街道を見れば信じるしかないでしょ。ほら見て下さいよ、うじゃうじゃいる。ここはそう言う所です」
クイッと顎で前方を指すと、そこには空想上の生き物とされる者たちがうろうろと歩き回っていた。天狗や樽を持った小豆洗いと赤舐め、一つ目小僧、ろくろ首、青女房などが地を歩き、空には一反木綿や麒麟などが飛んでいる。
「他の人たちはこれが見えないから、面倒なの」
「面倒とは?」
「なにかが無くなったとか、誰から背中を押されたとか。みんな人のせいにする。しかもほとんどが私なんです」
肩を落としてため息をつきながら、 汗臭い白いシャツをクンクンと嗅いだ。その袖で額から滝のように流れる汗を拭いた。シャツも湿っているのに、汗が拭けるわけがない。
「先生、どこ行くんですか?」
「俺の実験ラボだ」
「ラボ、ね」
私はそれ以上は追求せず、周りをちょろちょろと走る人ならざる者たちを踏みつけないように真っ直ぐ歩いて行った。
学園内放送で突然呼ばれた。自席で本を読むことが習慣の椿は、なにも怒られるようなことはしていないとは思うが、他のクラスメイトは、なにをやらかしたんだ、とこちらをじろじろと見てくる。
「なんなのよ」
しかし椿はもう一つ、理事長室に呼び出される理由を知っている。それは『なにかに対して敏感』であること。
例えば、耳や鼻、目や頭、創造力、思考力、計画力、検証力、変化力、反証力、データ読解力、データ分析力などだ。
しかしこれは外部の人間は勿論、内部の生徒や教諭にも知らされることはない。まあ、椿がどこで知ったかは後々教えていこう。
騒がしい様々な足音が階段を一段一段音を響かせて踏み上がっていくが、その中でもか細い足がとんとんと階段を踏み上って行った。
「2年華組瑠璃塚椿です。失礼します」
5階にある理事長室に着くと、軽くドアをノックした。直ぐに中から返事があり、ドアを押し入って入るとそこにはソファに座った理事長とその横に並んで立っている一人の若い男がいた。スーツではなく、楽なYシャツと白いジーンズを履いた男だった。
「おお!きたか、瑠璃塚くん。かけたまえ」
座るよう言われたが、直ぐに戻るつもりなので、と断った。座って話すと必ず話が長引く。ラフな格好をしている男を気にしながらもドアの前で立ち止まった。
「ご用件は?」
無駄話を理事長がし出す前に椿は、本題への流れを作った。男は私を気にしない様子で紅茶を飲んでいる。いかにもナルシストな雰囲気だ。
「成績優秀、運動神経も良いと評判の瑠璃塚くんにこの方の手伝いをして欲しいんだ。頼めるか?」
「急にそんなことを言われても無理です。順序を踏んでお話し下さい」
考える時間も取らずに、即答した椿は理事長室のドアのノブを後ろ手で握った。ずっとニコニコしている男の本性を知らないのに、手伝えなんて言われても「はい、分かりました」などと言えるわけがない。それになにを手伝うのかも聞いていない。
「分かった、順序良く話そう。この方は警察署から派遣された、真夜中巡回公務員の金澤友彦さんだ」
「よろしく」
軽く手を挙げてこちらを見ただけの、金澤友彦は椿に興味はないようだった。体の中に渦巻きそうになった怒りを抑えて、頭を下げた。真夜中巡回公務員がなにかは気になったが、底には触れないことにした。話が長くなりそうだったから。
「この方の仕事は、普通の警察では行えないような捜査を行うこと。その手伝いを瑠璃塚くんに手伝って貰いたいのだ」
しばらく話しを聞き、頭を悩ませる。
「そちらには利益があるとは思いますが、私にはなんの利益があるんです?」
一方だけに利益があるのは、椿のプライドに傷が付く。
「それは、後々分かる。利益があるのは間違いなしだ」
やっと友彦は声を出した。すると思ったよりも澄んで凛々しい声をしていた。
「利益があるのなら、引き受けましょう」
これが瑠璃塚椿にとって、人生を変える出来事の1つだった。 馬鹿みたいに晴れ上がった夏の陽に首筋を焼かれる。椿は頬に掛かる髪は長いが、背中に掛かる髪は顎ラインで切っている。これが夏になると首筋をすっごく黒くなる。赤くはならないから、何とかなる。
「名前は?」
友彦が廊下の奥に視線をやりながら、唐突に聞いてきた。
「瑠璃塚椿です」
驚きはしたが、表には出さないようにして友彦と同じように、廊下の奥に視線をやりながら答えた。友彦の方に視線を移すことはしない。
「お前は、視えるのか?」
「は?」
最初は何を言っているのか分からなかったが、3秒ほどフリーズした後、理解できた。
「幽霊とかですか?」
「そうだ、見えるならこの仕事は簡単だな」
椿の頭の中になんの仕事をするのだろうと、疑問がよぎった。それを察したかのように友彦は仕事の説明をしてやる、と偉そうに話し出した。
「俺がしている仕事は、さっき理事長が言っていた通り、真夜中巡回公務員だ。この世の中に俺ぐらいしかやってないだろうけど。真夜中巡回公務員はお前が」
「お前じゃないです。瑠璃塚椿です、覚えて下さい」
友彦の話を遮り私は改めて名前を言った。名前を名乗ったのにお前お前とは言われたくない。
「それで?真夜中巡回公務員はなんなんです?」
口を挟めば一向に話そうとしない友彦を、話させようと誘導する。何がしたいのかよく分からない。
「真夜中巡回公務員は瑠璃塚の言ったとおり、幽霊やその他にも妖怪、悪魔、天使、妖精などが起こした事件を解決することだ。これはそれらが見える者でないと、行けないから苦労するんだよ。どうせ瑠璃塚は信じてくれないだろうが」
急に自分の大変さを語り出した。しかしその言葉の中と表情になにか諦めるような、我慢するようなものが入っているように見えた。
「先生」
「なんだ、信じてくれるのか?」
「別に信じる信じないの問題じゃありません。でもまあ、とりあえず信じたと言うことにします。その妖怪たちの声は聞こえるんですか?解決するとしても、声が聞こえないとなにも始まらないでしょ」
うぐっ、と友彦が体をくの字に曲げた。その反応を見て椿は驚愕した。
「まさか、声を聞かずに解決してたんですか!?」
廊下を渡りきり、外のテラスを歩いていたが、まるで校舎に響き渡ったかのように、椿の声はわんわんと叫び渡った。無理強いに目を開けているようで瞼の筋肉が震えるほど、目を大きく開いた。
「い、いけないのか?」
「ダメに決まってるでしょ!なにやってるんですか!頭悪いんですか!」
椿と友彦の立場が逆になっている。心を落ち着かせるように、青く澄んで絹のように光る、トルコ石のような初夏の空に、白く濁った、熱く甘い夏を含んだ雲を見上げて、大きなため息を一つついた。
「それで?なにを手伝えと?」
「・・・・・・妖怪たちが起こした事件の捜査と、調べるのをです。お願いします」
急に声が小さくなり、敬語になった。さっきの叫び声が怖かったのだろうか?まあ、舐められるよりはましだ。
「先生、甘ったるいココアの匂いがするんですけど。ココア飲むんですか?」
そう聞くと慌てて友彦は、手のひらに息を吐くとクンクンと嗅いだ。ココアを飲んでいるのは明らかになった。これをスタートの号砲に、友彦のことは少しずつ分かり始めるだろう。
「先生の話って胡散臭いし、非現実的だし。他人が聞けば信じませんよ」
正門を潜り学校の外に出ると、日差しが一層強くなった気がした。正門を出ると目の前には、歴史街道(旧街道)と呼ばれる道が広がる。明治時代に作られたので赤煉瓦で作られ、少しヨーロッパの空気を漂わせている。
「でも、私は信じます。この街道を見れば信じるしかないでしょ。ほら見て下さいよ、うじゃうじゃいる。ここはそう言う所です」
クイッと顎で前方を指すと、そこには空想上の生き物とされる者たちがうろうろと歩き回っていた。天狗や樽を持った小豆洗いと赤舐め、一つ目小僧、ろくろ首、青女房などが地を歩き、空には一反木綿や麒麟などが飛んでいる。
「他の人たちはこれが見えないから、面倒なの」
「面倒とは?」
「なにかが無くなったとか、誰から背中を押されたとか。みんな人のせいにする。しかもほとんどが私なんです」
肩を落としてため息をつきながら、 汗臭い白いシャツをクンクンと嗅いだ。その袖で額から滝のように流れる汗を拭いた。シャツも湿っているのに、汗が拭けるわけがない。
「先生、どこ行くんですか?」
「俺の実験ラボだ」
「ラボ、ね」
私はそれ以上は追求せず、周りをちょろちょろと走る人ならざる者たちを踏みつけないように真っ直ぐ歩いて行った。
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