俺の恋人曰く、幸せな家庭は優しさと思いやりでできている「下」
引き金をジャックが引けば、私は間違いなく死ぬ。

リーバスにもう会えなくなるという恐怖が、私の体を震わせる。

ジャックはニヤニヤしたまま、拳銃を強く押し付ける。硬い銃口が当たっている痛みなんて、全く感じない。それほど心に余裕なんてなかった。

「……おねが……ま、待っ……」

恐怖で、喉は声の出し方を忘れている。しばらくもしないうちに、私の口から全力疾走をした後のような呼吸が漏れ始めた。過呼吸を起こしたのだ。

「くくく……。あっはははははは!」

手足が痺れ、呼吸ができない苦しさに必死に耐えている私の顎を、ジャックは乱暴に掴んで上を向かせた。

「お前は、リーバス・ヴィンヘルムをおびき出す大事な犬だ。逃げようとしたり、抵抗しようとしたら、容赦なく殺す。…いいな?」

ジャックの目は、驚くほど冷たい。私は必死で頷く。

ジャックは満足したように笑い、私を放すと部屋に鍵を閉めて出て行った。

助けてくれる人は、誰もいない……。

私は荒い呼吸を繰り返した後、意識を失った。
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