きみの理想の相手
「女友達が駅周辺になると、ストーカーがいるって相談されて、彼氏役をやってたんだ。
そしたら、急にストーカーが近づいてきたから、とっさにキスしてストーカーから逃げさせようと。あ、もちろんフリだよ。キスはしてないんだ。けど、彼女に見られて。説明はしたんだけどね。で、後々気づいたんだ。あれは、嘘だったらしい」
「え?どういうことですか?」
俺は状況が理解できなく、思わず聞き返してしまった。
「つまり、ストーカーも女友達も協力して、俺を落とそうとしていた訳だよ」
恵さんはさっきほど頼んだスルメを口に運び、無表情で俺に話した。
「え?なんでそんなこと」
「俺が好きだから、どんな手を使っても俺と
関わりたかっただと」
恵さんはため息をつきながら、またスルメを食べていた。
「……恵さんの初恋の人は、どんな人だったんですか?」
「優しくて、一緒にいると楽しい人」
「じゃあ、なんで別れちゃったんですか」
「お互い好きだったけど、さっきの話したことで信じられなくなったんだって。お互い好きだったんだけどね」
切なそうな表情をして、恵さんは俺に言う。
「…今でも忘れられないですか?」
俺は飲み終えた酒が入ってるコップをテーブルに置いて、恵さんに聞く。
「……忘れられないか。そうだね。今も想ってるよ」
恵さんは目を丸くして驚いた顔をしてから、どこかを見ているかのように答えた。
俺は恵さんの表情に驚いた。
いつも接する人には優しい笑顔で関わる恵さん。
だけど、それより愛しい人を想ってる恵さんの顔は自然で心の底から笑っている気がした。
「恵さん。本当に今も好きなんですね」
「そうだね。全然会ってないのに。なんでか好きなんだよね」
その人を考えているだけで笑顔になるのは、よほど彼女のことが好きだって分かる。
「恵さんにそんな風に想われる人はよほど魅力的なんですね」
恵さんの表情を見ながら、俺は笑って話しかけた。
すると、恵さんは俺に言った。
「だったら、輝くんもそうだよ。まだ付き合ってないとしてもそんな風に相手を想うのは好きって気持ちが強いんだよ」
恵さんはニコッと俺に笑いかけて、またスルメをポリポリと食べている。
「そんなこと言われると、また会いたくなるじゃないですか」