きみの理想の相手

「…っ、理実」

亮介は後ろの席から立ち上がり、ドア付近に行き、私の名前を呼んでいた。

だけど、私は戻らなかった。

私は今、金井さんに恋をしている。
なのに、さっき亮介にドキドキしていた。

バス停留所を降りて、呆然と立ちつくした。

立ちつくしていると、ポツポツと雨が降ってきた。

私はいつもの喫茶店に行こうとしたが、何故か足がすくんでしまった。

「…なんで。ドキドキしてるの。私が好きなのは、金井さんなのに」

私は困惑していた。
付き合っていた頃、言われた甘い言葉。
そして、名前で呼ぶ声。

思い出す、あの頃のことが、蘇る。
だけど、高校の亮介とは違う。

変わっているんだ、私も。
亮介といると、心が高校生の頃に思い出される。胸が高まる。

でも、社会人になって久しぶりに会ったけど、
前とは違う。
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