きみの理想の相手
私は無意識に敬語ではなく、タメ口で話していた。けど、恵くんは私と面と向かって話
してくれた。
「俺は欲が強いよ。誰にも嫌われたくないし、いい人でいたいだけだよ」
恵くんはそう言いながら、顔をテーブルにつけて、少し顔を上げて私に言う。
「暦ちゃん。俺、ずっと忘れられないんだよ」
「何が忘れられないんですか」
「君だよ。暦ちゃん」
「え?」
私は目を丸くして、恵くんを見る。
「ほんとだよ。ずっと忘れられなかったんだ」
テーブルに顔をうつ伏せになってから、顔を上げて、私の右手を握りしめてきた。
「…恵くん」
「好きだ。暦ちゃん。今日久しぶりに会った振りなのに驚かせたよね。ゴメン。でも、僕は暦ちゃんが好きなんだ」
「……恵くん。私たち、久しぶりに会ったばかりなのに、なんでそうだとわかるの?私だって高校の時と変わってるかもしれないんだよ」
「……変わってないよ。今日だって、ちゃんと来てくれたし。仕事を休むほどのなにかがあったのに僕のとこまで来てくれた。それだけで分かるよ。真面目で優しいとこ変わって
ないよ」
私は真っ直ぐに私を見つめて、右手をただ握りしめていた。
私の右手に恵くんの手が重なられて、温かい手に胸があつくなり、自分の胸を押さえた。
「……恵くん」
「久しぶりに会ったばかりだし。返事に困るよね」
恵くんは目を細めてから、私に聞いてきた。
「そんなことはない。……ただ驚いただけ」
私は恵くんの目を見ることなんて、出来なかった。
だけど、私が返事をしたら、恵くんは私の右手を離した。
「それなら、良かった。返事はいつでもいいよ。その時はここに連絡して」
恵くんは連絡先が書いてあるメモをテーブルに置いて去っていた。
恵くんと久しぶりに会って、カフェでお茶をしてお話をしたかっただけだ。
なのに、まさか好きだと言われるなんて。
なんで、そんな。
私になんで!?
驚きと困惑で椅子に座ったまま、呆然とした。
*
その一方で、恵くんは。
「……あー、言ってしまった」
僕は暦ちゃんと偶然に会って、カフェで待ち合わせしてただ話すだけだった。
でも、高校の暦ちゃんはまだ幼い感じに見えた。それでも、可愛いと思えて付き合うことになった。
現在の暦ちゃんは大人になり、綺麗になっていた。
思わず、言ったんだ。
「忘れられないんだ。暦ちゃんのこと」
ポロリとでた言葉だったが、暦ちゃんは驚いていた。