きみの理想の相手
「…お礼なんていいよ」
真っ直ぐ私を見て、礼を言う彼に目を合わせることは出来なかった。
「…俺がいいたいの。まあ、振り出しに戻るということで、今までと変わらずで。でも、なんかあったら、俺に言えよな。すぐ駆けつけるから。もう時間だろ。仕事あるんだろう?」
亮介は、淡々と言いたいことを私に言った。
「う、うん。ありがとう。じゃあ、行くね」
戸惑いながら私は亮介に礼を言ってから、後ろを振りかえず、仕事場に戻った。
「おう」
亮介は返事をしてから、私が見えなくなるまで見送ってくれていた。
私は下に俯きながら職場に戻り、少し違和感を感じながら、仕事をした。
*
一方で、亮介は。
「はああー」
俺は理実を見送った後、その場でしゃがんだ。
喫茶店のお客さんはまだ中にいるが、一人しゃがみ込み、呟いた。
「言った。あはは。言ったよ。答えなんてわかってたはずなのに。今更。あはは」
俺は笑いたいのに、悔しそうに口を噛み、泣いた。
「よいしょ。さあ、今日は何するかな」
俺は立ち上がってからズボンのポケットにあった携帯を取り出して、時間を確認した。
その後、俺は近くにあったバス停で待った。
バスがきたら乗り、目的地は決まっていないがブラブラとどこかへ向かった。
亮介の行動をたまたま尊が見ていた。
だが、理実も亮介も知らなかった。
尊くんがあの場所にいたのに、喫茶店に入らなかったのは訳があった。