きみの理想の相手

「え?」

私は振り返ると、柱にロングヘアの女性がいた。

「なんでわかったんですか?」

元カノは恵くんに聞いてきた。

「キーホルダー。それって、輝があげたやつだよね」

恵くんは、ロングヘアの元カノのカバンにあったキーホルダーを指していた。

「……」

図星だったのか。
金井さんの元カノは、ただ黙って突っ立っていた。

「黙ってないでなんか言ったら、どうなの?」

廉さんは痺れを切らして、キレ気味で元カノに話し始めた。

「諦めようとしたけど、やっぱり諦めきらめなくて」

元カノさんは下に俯きながら、私たちに言った。

「だったら、正々堂々とこいよ」

廉さんは冷たい声で険しい表情をして、元カノに言う。

「だって、怖いから。好きだけど、もうフラれたし。何も出来ないから」

元カノは身体をモジモジしながら、金井さんのことについて声を発した。

だけど、好きなのは分かるが限度がある。

「…輝。ちゃんとけじめつけな」

恵くんの後ろにいたのか、金井さんがいた。

「輝」

元カノさんは、金井さんの名前を言って、目に涙を浮かべていた。

「…加奈子。俺はもう付き合う気はないから。あのときから、俺、変わろうとしたんだ」

あの頃を思い出しているのか、金井さんは下に向いていた。

「…でも、こんな私でもいいって言ったのは輝だよ」

元カノは一瞬だけ微笑んでから、目に涙を浮かべていた。

好きだけど、好きな相手がこんな苦しい思いをしていたら苦しくなる。

「最初はな。だけど、俺がどんどん嫌な気持ちになって、俺じゃなくなったんだ。分かんなかっただろう?加奈子はいつも自分のことばかり」

金井さんは下に俯いてから、元カノに震える声を振り絞って言っていた。

「……辛い気持ちさせたんだね。…分かった。今までありがとうね」

元カノは黙り、右の拳を握りしめて、金井さんに小さい声で発する。
目に溢れる程の涙を浮かべて、金井さんに微笑んでいた。

「…ふぅ」

金井さんは元カノが去った後、ため息をついていた。

「案外、あっさり食いさがたな」

廉さんは頭に両手をつけて言いながら、去った元カノさんの後姿を見ていた。

「元カノもただ話を聞いてほしかっただけじゃないんですか?」

私は廉さん達に言いながら、みんなの様子を伺う。

「…そうだな」

恵くんは頷きながら、私を見ていた。
何も言わずに、ただ見ているだけだ。

「恵くん。ありがとう」

金井さんは真正面に向かい、恵くんに挨拶をした。
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