きみの理想の相手
8時。
「6月1日。今日は利用者2名休みで職員の状況は1名休みです……それでは今日もよろしくお願いします」
細い目をして、一定の声のトーンで話しているけど、一切の感情が見えない50代男性の渋谷課長(しぶやかちょう)。
「おはようございます。暦さん」
私に話しかけてきた長身で細身の男性・手柄(てがしら)さん。
この人は要注意な男性。
妻がいて子供もいて幸せな家庭を築いているが、仕事はほとんど人任せなのだ。
私はこの人の上司にあたるが、手柄さんは何もしないので、ほとんど私が事務作業・利用者の手助けをしている。
「…おはようございます」
いつも朝に話しかけてくる時は、今日のことか、良いことあった時しか私に話しかけない。
「…どうしたんですか」
「いや、それがさ、俺の妻、腰痛めて。今日早く帰らなきゃいけないんだ。ごめんね。毎回休み多くて」
小さな目をくしゃと皺ができるくらいに笑い、私に謝っている。
謝るのはいいけどなんでそんな嬉しそうにしているんだ。
皆きちんと自分の仕事を全うしているのに。
普通、あんたの奥さんの腰が悪くなったからって休まない。
私は心の中で叫びながら、笑顔で手柄さんに言う。
「あ、そうなんですね。いえいえ、大丈夫ですよ。奥さん、良くなるといいですね」
クソ野郎。
本当に奥さんが腰を痛めたのか。
ってか、まだ治ってないの。
先週も同じこと言って休んでなかったか。
私は優しい声で手柄さんに言った。
「ありがとう。明日は休まないようにするから。いつも申し訳ない」
手柄さんは申し訳なさそうに両手を重ねて、再び私に謝る。
謝るんだったら、休まないで仕事に来いよ。
と沸々の怒りを心に感じながら仕事に戻る。
事務作業の前に、利用者の送迎に向かう。
そのため、男性は運転手として、女性は添乗員としてバスに乗り込む。
コースは毎日変わり、運転手によって帰りが早くなったり遅くなったりするのだ。
今日は、板垣(いたがき)さん。通称、声なし。
声が聞こえずらいので、声なしと影で言われている。
入った頃は、誰のことかわからなかったけど。
「今日は利用者三人ですよね」
「そうですね」
その一言だけ言うと、じゃあ出発しますよ
と言い、発車させて1時間後私の会社に付いた。
それから、私は利用者と関わり、数時間後、あっという間に終礼が始まり、帰宅時間となった。